2018年12月6日木曜日

山陽新聞

   山陽新聞の書評のページ 「エリアの本」2018年11月11日

「今という空を」(小舞真理著)
岡山市在住の著者の第二詩集。
試作を「現実の向こうに見えている
ものを追求すること」と例え、「窓」
という1篇が。その言葉を象徴する
<窓は光でできている/窓は光で
できている/窓を開けなくても/
すでに窓は開かれている>とつづり
世界は現実と幻。内と外に区別され
るものではなく、風が吹き部けていく
ようにつながっていると表現する。
 宇宙との交歓をうたった「流星」
草花が,舞い、語りかけてくるような
「植物図鑑」など、作品には独自の
世界観があふれる 読後のすがすが
しさが心地良い
 所属する詩誌「黄薔薇」掲載作を
中心に、ここ10年ほどの詩作品を22篇
収めた
    
   本多企画 2160円
          (則武 由)

2018年10月30日火曜日

秋の陽ざし

    
透き通った秋の陽ざしに
まっすぐ射られていると
心のすみずみまで
涼やかになってくる

天空で磨かれた
光の粒子が
皮膚を突き抜けて
血流のように体じゅうを
駈けめぐるので
意識の内側も外も
どんどん透明になっていく

物質の表面を覆っていたものは
いったい何だったのだろう
意味のないものに囚われて
前にも後にも進めなかった
不安と焦燥の日々

秋の光の純度の高さに
触発されて
戸惑っていた時間が
どこかに消えていく

私は軽やかになって
不思議の旅を続け
いつのまにか46億年の時を超える

青水晶を散りばめたような
この空の彩は
太陽系が出来上がった日の
空の青さだ

すがれていく木の葉の
間に小さく刻まれた空が
急に広がって
悠久の時間と繋がっていく瞬間

生まれたばかりの
柔らかい地球の上で
私は、今,目を覚ます





   

2018年10月17日水曜日

詩集「今という空を」の感想

新木敏郎さんから

(略)

感銘を受けた作品
「ほのお」特に最初の4票はとても素晴らしいと
感じました 詩の枠を飛び出して、商業文としても
書籍や出版社が使うべきだとさえ思いました
「今」の最初の2行、理屈がどうのこうのではありませんね
ㇲトーンと心に落ちてきます 細かいところを銅とらえる
かは個人個人で異なると思いますが、そう違わないと
思います
「窓」特に「窓は光でできている」の一言はすごいです
最初の8行は、名文です

最初,難解でも、繰り返し読むことによって意味がしみ込んでくる
という気がします 四というものはインすポレーションやイマジネーション
が関係しているのだなと思いました
「森」も「流星」も、だんだん形が見えてきました
「空のピアニスト」や「地球へ」や「樹木と太陽と」も見えてきました

結城厚子さんから

「今という空を」装幀も素敵ですね
ページをめくるたびに心が自由になり、豊かな感性を
感じました 読みながら空 風 光 言葉の向こうの
世界に自分の思いをめぐらせました 作者の感性から
溢れる言葉を、自分なりの世界を空想しました
それぞれのページに広がる色の世界に遊びました
「冬の空いろ」「今」が特に好きです



詩集の感想

「ほんのわずかな確率で_虹が出ている」ってそんな感じです。虹をつかみに、ふと気がつくと 私はゾウの背中に乗って 空を飛んでいた。なんだか目に見えるようです。
オルセー美術館でゴッホのブースに入ると空気が全く違っていました。存在感があって圧倒されました。古い教会を真ん中にして道が二つに分かれているのです。空は妖しくグルグル回り、道は折れ曲がり、教会もどこかゆがんでいます。前に立つと吸い込まれていきそうです。衝撃的でした。
真夏の午後 ゴッホの絵の中に まぎれこんだような ひととき あの樹木のなぞは まだ解けないままだ
ちょうどそんな感じかなと思いました

、○ 無花果さんから
素晴らしい作品ばかりですね☆☆☆☆☆
本が読める不思議な真っ暗闇から
、銀河団を仰いでいるかのような清涼感☆
とても懐かしい共感という蝋燭に、ほっと火がゆらめきます
、何度も読ませてくれる詩集なので不思議なのです♪
イメージがフラりと入って来ては、奥行きがスコーンと出て外界に連れて行ってくれます♪

2018年10月16日火曜日

詩集の感想

◎ 佐川友則さんから
(略)

今まで部屋から外を見ていても、何の意味も
ありませんでした でも「窓は光でできている
洗濯したての白い雲」と思った瞬間、意味が
全く違ってきました 窓はアルミとガラスで
出来ていると思っていたのですが光でできて
いたのですね 単なる物の世界から、心の
世界へ変わりました
いろいろと想像が膨らみます
自分が今まで気が付かなかった視点を見せて
くれるので とても新鮮です 出会っていなか
ったら絶対に詩集は読まなかったと思います
 「地球へ」「飛ぶ」などが特に印象に残りました

◎河邉由紀恵さんから
(略)
詩集にまとまったら、真理さんの世界観が強く
現われていますね 透明でまっすぐ、純粋で
求道的・ とても眩しいです
「植物図鑑」の「自分が植物だった頃の記憶」
という一文に惹かれました また、最初の「ほのお」
バシュラールの「蝋燭の焔」あの頃を思い出しました

◎川井豊子さんから
 (略)

最初の詩集「るっぴんるっぴん」から何年たつの
でしょうか こつこつと詩に向かい合ってこられた
時間を感じます 最初と死後の「ほのお」と「窓」が
特に良いです それにしても言葉が瑞々しいですね

◎瀬崎さんから
御作品には、自然との交歓が無尽に描かれていました
卑小な人間世界を包み込んでいる森や山 空を感じる
感覚が良かったです そしてクジラやゾウなどの生物
草花などとの交流が世界を豊かにしてくれるのでしょう

◎岡野智恵子さんから
詩の中の一文「自分で迎えにいく朝日」ここのところ
グッときました 豊かな言葉選びに引き込まれました
何度も読みたくなります





詩集の感想

。ご感想をどうもありがとうございます

◎ 装丁も素敵で、見開きのブルーの色がきれい。
もちろん詩は、どの詩にも
透明な真理さんの世界が広がっていて、
引き込まれます。

最初の「ほのお」という詩の中に

一冊の書物の中には
いくつものあかりがともっていて
ページを開くたびに
あたらしい光に照らされる

(中略)

書物からあふれ出る
さまざまな光は
飛び交いながらうずまき
大きな星雲になって
宙を舞ったり
地に降りて一輪の花になる

(後略)

という言葉があります。
その言葉は「書物」を「詩」に変えたら、
まさしく真理さんの詩そのものだと思います。
真理さんが選ばれた言葉の1つ1つが
「光」であり「星」であり「花」のようです。
真理さんが作るイマージュの空間が広がり、
私も今、そこに立ち会っている気持ちになりました。
           (加藤喜代美さん)


◎ いつもながら、風や光や色のイメージが
素晴らしく 詩の世界にすっかり浸ってしまいました
好きな詩は「空のピアニスト」 「青い樹木」 「クジラと出会った」
「植物図鑑」などなどです
               (石川早苗さん)

2018年10月15日月曜日

ファンタジー

     [ファンタジー」

銀いろに光る
静かな天を
パリっとはがすと
褐色の大地が
どこまでも

(チョコレートファンタジー)

街並み抜けると
新しい町の
まっすぐな道
チョコの香りに
包まれる

(チョコレートファンタジー)

わたしの気持ちの
ひとかけらだけ
とろとろとろけて
不思議な力が
湧いてくる

2018年9月23日日曜日

夕焼けの匂い

涼やかな
秋の夕焼けを
吸いこんで
柿の実は
空で光っている

(ここにいます
 思いをこめて
 キラキラ)

ひとつもぎとるたびに
夕空は深くなり
ピンクからパープルへの
グラデーション

謎のイルミネーションが
あかるくともる
帰りみち

両手に抱えた
竹かごの中
たくさんの柿の実は
夕焼けの匂い

2018年9月19日水曜日

ひみつ楽団


ぐるぐるうずまき

あさがおのつぼみ

ゆるゆるほどけて

パッとひらくと

夏のいろ



あお あか むらさき

ちいさなラッパ

つぎからつぎへと

花咲くたびに

聞こえてくるよ

夏のねいろ



空に向かって

高らかに

波うつような

ファンファーレ
夏のよろこび
奏でてる




あのトランペットを

吹いているのは

誰かしら






2018年8月17日金曜日

木澤豊さんからの詩集評

   「今という空を」

宇宙の美しさの肯定に満ちた詩集、ありがとうございます
そうだった、この世界はこれほどの光にあふれていたんだ
だから、いつも新しいんだ
そのように詩人のことばが教えてくれました
日々、一つ一つが出会いであった時間がありました
わたしは、それを思い出しました
発見の詩と言えますか

まるで想像世界への案内地図です
たとえば「クジラと合った」」
これは海への導きのうたです
心も体もそれらの言葉にグラリと揺れます
どの詩もそうなのですが。
(中略)

「約束の場所へ」とてつもなく大きなな約束
(ドア)の不思議な存在の仕方
わたしはこういうドアを持っているかなあ
(言葉が意味を結ばない世界 
 私にはまだ聞こえてこない)
(雨)はことばかもしれない 降ってくる 受ける 
晴れる・・・ 時代や人や場所で変わるけれど
いつもそれを浴び濡れている 乾けば自分が終わるときなのかなあ
いや雨ごいをするかな

最後の「窓は印象深かったです
開けなくても開かれている窓
たぶん海へ空へ宇宙へ無へ
 
印象深い詩集でした
ときどき開くことになるでしょう


2018年8月2日木曜日

                  [月夜」

月の光が
まぶしい夜には
出窓を開けて
月の光を吸い込むと
葉っぱの小舟に
飛び乗って
月光の道を渡っていく

明かりのともる
街並み超えて
神話の森を巡りながら
星と出会うたびに
挨拶しながら
どこまでも


月のメロディーが
聞こえてくる方向に
出かけてみよう
月が待ってる

一夜だけのカーニバル




2018年8月1日水曜日

ひみつ楽団

    「ひみつ楽団」

ぐるぐるうずまき
あさがおのつぼみ
ゆるゆるほどけて
パッとひらくと
夏の色

あお あか むらさき
ちいさなラッパ
つぎからつぎへと
花咲くたびに
聞こえてくるよ
夏の音色

波うつような
空に向かって
高らかに
夏のよろこび
奏でてる

あのトランペットを
吹いているのは
誰かしら

2018年6月19日火曜日

あとがき

      あとがき

 二十年ぐらい前。宮沢賢治研究会「天気輪
の会」で賢治作品について毎月レポートを書
いていました。ある日、唐突に、主宰の木澤
豊さんから「新しい詩誌を作りますので」と
言われ、、いきなりメンバーに入っていたの
で、驚きました。まだ詩を書いたことがなか
ったので、少し躊躇していたら・・...   「大
丈夫ですよ 思い浮かんだことをそのまま書
いて、ください」と。勧められました。
というわけで 何が何だかわからないまま、
詩誌「つめくさの信号」に投稿し始めたのが、
私の詩の、出発点だったと思います。あれか
らずっと、詩のようなものを書き続けている
のですが やっぱり今も、何が何だかわから
ないままなのです。
 でも、詩の奇妙な引力に引かれ、不思議な
衝動に突き動かされて、書いているのは確か
です。 説明のできない未知の世界を、もっ
ともっとさまよってみたいと思っています。
その後。POEM LETTER「天気予報」を経

て詩誌「黄薔薇」の同人になり現在に至り
ます。

 この度は、新しい詩集を作るにあたり、
「黄薔薇」の井久保伊登子さんから。
「次の詩集を、早く作った方がいいですよ」
と、お電話やお便りを何度かいただき。詩集
作りの準備のこと、詳しく教えて下さいまし
て、やっと制作に取り掛かかるかことができ
ました。そして、宮崎の本多企画さんをご紹
介いただき。本多寿さんが素敵な
編集をして下さいました

 詩集作りに関わってくださった方々、見守っ
て下さったすべての皆様、インスピレーショ
ンを与えてくれる森羅万象に深く感謝しています


星占いでは、「出会い運」だけが飛びぬけて良い
のですが、本当に出会いの運勢は抜群に良いよう
です。この本を手に取ってくださっている皆様
とも紙上でお会いすることができて、とてもう
れしいです

              2018年

 


2018年6月14日木曜日

   「虹」

急に降りだした雨
とうめいな雨つぶが
次から次へと
連なって降りてくる

鮮やかな緑葉が
水滴を受け止めるたびに
いっそう艶やかに輝いて
発光している
初夏の午後

ふと気が付くと
窓が妙に明るくなっていた
色とりどりの光のスペクトル
雨が残した水蒸気が集まって
’’(色彩の粒子のパレードが始まるよ’)

妖しい光に誘われて
外に飛び出すと
空いっぱいに立ちのぼる
巨大な光のアーチ
どうぞここから入ってください

圧倒的な引力に惹かれ
吸引されてtいくけれど
近づいても 近づいても
遠くなる
奇妙な遠近感

広々とした入り口が
待ち受けているのに
入ろうとしても入れない
立ち止まって、ただ見惚れていたら
あっという間に消えていた

虹の残像だけがが夕暮れま近の空に
溶けていく

人は虹を見上げて
心の中に吸い込むたびに
虹色の渦に巻き込まれ
翻弄されながら
澄み切っていく

再生の時間

     (途中です)












  

2018年6月2日土曜日

目次

     目次

ほのお
 米



流星
どこまでも
地球へ
冬の銀河の片隅で
夕日から始まる
朝がくる

2
空のピアニスト
青い樹木
空を泳ぐ
時のかたち
クジラと出合った
飛ぶ
追いかける


約束の場所へ
冬の空いろ
樹木と太陽と
出会う
植物図鑑

2018年5月20日日曜日

(プロローグ)              
「糸の言葉」  207
「あかり」   195
「森」     160
「約束の場所へ」163
「もっと遠く」 
「時のかたち」 183


(音楽など)
「音魂」
「空のピアニスト」198
「音色」「    179
「スクリーン」  194
「ほのお」    195

(フィギュアスケート」
「冬のタンゴ」  191
「心の音色」   194
「約束」     201
「氷上の4分30秒」189
「音色」
「鼓動」     197

(冬)
「冬の空いろ」 204
「キミと出会うのは」196
「冬の人」  183
「冬の銀河の片隅で」208

(植物)
「樹木と太陽と」170
「青い樹木」  179
「飛ぶ」
「植物図鑑」176
「追いかける」204 
「どこまでも」200

(宇宙)
「地球へ」178
「流星」210
[夕日から始まる」186
「クジラと出会った」181
「言葉に乗って」172

(迷い)
「夢の迷路」193
「出会う」160
「空を泳ぐ」192
「空と雲との絶妙なバランス」

  (希望)
「あの人」211
「朝がくる」 192
「窓」    177
「駈けていく」160
「ひなまつり」171
「今」158



2018年4月22日日曜日

糸の言葉

         「糸の言葉」

あざやかな色彩の糸が
リズミカルに並び
さまざまな形を作り出している
ミャオ族の刺繍展
不思議な模様の
しなやかな美しさに
引きこまれていく

布たちが呼吸している
と思った瞬間
詩集のあいだから
一匹の蝶がこぼれ出て
展示ケースを抜け出して
宙を舞い始めた

あちらからもこちらからも
たくさんの蝶が
飛び出してきて
無数の精霊を連れて
いっせいに乱舞している


光る粉がふりかかり
鱗粉に触れたなら
懐かしい場所に帰っていく

ミャオ族の最初の人は
蝶の卵から生まれたという

風の中できらめいている
光を探し求めて
風のすきまに
すべりこみながら
追いかけ続けた
あの日々

蝶の魂を宿し
宇宙に張り巡らされている
見えない糸を
たぐり寄せ染め上げて
伝えたい思いを
一針一針にこめて
刺していく

私は山麓の村に住み
涼風のなかで手仕事をしている
ミャオ民族の女になっていた

届けたい思い
あなたに届いていますか







2018年4月12日木曜日

空と雲の絶妙なバランス

      「空と雲の絶妙なバランス」

うすぐもりの空を見ていると
ねむくなってくる
グレーの空気のかたまりが
とろんと覆いかぶさってきた
現実のジグザグ模様や
こんがらがった渦巻きも
ぼんやりなだらかになる

閉じ忘れた心の窓から
雲のはしが入り込んで
心の中と外が
つながっていく

空が雲を抱きしめるたび
雲がどんどんふくらんで
雲はずっしり重くなる
雲の輪郭は心の形のように
どこまでもとりとめがない

今にも雨が降り出しそうな
今にも晴れ渡りそうな
どちらにもならない
空と雲の絶妙なバランス

ねぇ 目をさまして
自分で雲を突き抜けてみようか
ふーとゆっくり吐き出して
わきあがる青空を吸い込み
こぼれかけた雨を飲みこんで

つるっとした風の背中
すべすべの水の足音
すらりとした土の頬
がさがさの樹木の肩
さくさくした屋根の額
ふっくらした花の手のひら

ひとつひとつのものたちに
手で直に触れてみる
触れた瞬間,体に響く

あの不思議な実感
とがった形はとがったままに
まるい形はまるいままに
すべてのものを素手でつかみたい
芽を開けて見続ける夢の途上で




2018年4月6日金曜日

     「今」
未来に引っ張られている時は
過去からも引っ張られている
キーンと張り詰めた見えない糸は
どこまでも伸びて
私はちょうど真ん中あたりで
綱渡りしている

一歩踏み出すたびに
全身が大きく傾いて
世界中が揺れる

踏み外しても
青空に落下するだけだ
耳もとで風がごうっと鳴って
すべての音が消されていく
脈拍の波が押し寄せてくる
何もかもが不安になると
肩先が妙に寒いね
太陽を浴びた草の匂い

近くを見ることが怖くて
遠くばかり見ていたら
糸の細さが気にならなくなった
芽をつむるともっと遠くが見える
昼間なのに暗い空間
もう夜なのかもしれない

ふと立ち止まったら
光の束がいっせいに
私に向かって飛びこんできた
たくさんの色彩が重なり合って
私の中を白い光が
駆け抜ける

果てしなく遠い場所で
透明な水が湧き
白い滝になって落ち続け
月の光に照らされている

ほんのわずかな確率で
今、虹が出ている

2018年4月5日木曜日

呼吸する風景

      「気球する風景」

世界のどこかで
艶のある闇色のタマゴから
ふわっと飛び出す朝の色
生まれたての光は
眩しいエネルギーの源
膨大な量に増殖して
何億もの窓に
押し寄せてくるから
ガラス窓は膨張して
大きくしなり
部屋の中まで風景が
なだれこんでくる

私は静かに受け止めて
ゆっくりと元の場所にもどす
山の位置 空の位置 自分の位置
カチッとはまった時
無音だった風景が
新しい今日の音楽を
奏で始める
まっすぐに伸びる視線
遮るものが何もない空間
効いたことのない旋律が
響き渡り
体内にこだまする

今日はどこまで行けるだろう
目的地を決めない旅人のように
いつもどこかに向かっている
出来る限り遠くまで行って
風景の呼吸を感じながら
まだだれも見たことのないものと
出会いたい
図ることのできない距離と時間
余白が多いほど可能性が大きい

弾きたてのコーヒーに
熱い湯を注ぐと
ふくらんでくる褐色の大地
コーヒーの香りで
外と内の境界がとけていく
世界のこの場所から
朝が始まる


      「風」

私は風の中にいます
風が私を包囲しています

春先の唐突な強風に
家ごとあおられながら
私は風をみつめていた

木の枝が小刻みに揺れ
明るいグレーの空に
突き刺さったり離れたり
抽象画のの線のように
風の動きを描き出す
とめどなく変化し続ける
風の形 形の風

風が強く吹きつけるたびに
何かがこわれる音がする
屋根がめくれあがろうとして
窓枠が震え始める

世界のどこかが軋んでいる
妄想が大きくふくらんで
得体の知れない
原初の不安感に包まれる

風は何かを伝えたいのだろう
叫びながら訴えてくる
つぶやくように語りかける
風の音 音の風


私は急いで詩の言葉を
書きとめようとしたが
風に吹きと飛ばされてしまい
風の言葉だけが残り
私は風の決勝を拾い集める

たくさんの風の音とかたち
通り過ぎて行くと
雲も一緒に飛ばされて
奇跡のように透明な景色
まっ青な空が見えてくる
風の魂 魂の風

私は風の中にいます
風は私の中にあります





2018年4月4日水曜日

植物図鑑

    「植物図鑑」

輪郭のない風に乗って
冬の精が踊りながら
窓ガラスにぶつかってくる
風のかたちが見えてくるたびに
心をノックされている気がして
(’私はどこからか逃れてきたようだ)

あたたかい部屋の中
ソファーに深く沈みこむと
分厚い植物図鑑を開く
印刷の匂いが広がって
つややかな緑の世界
図鑑の中でひしめきあっていた
鉱山の花たちが飛び出してくる

薄紅色にうつむいていたコイワカガミ
ささやきかける紫色のイワギキョウ
透明な秘密の言葉が隠れている
(花を見ながら、一瞬、見つめ合っていた)

花びらがくるくるつ回るチングルマ
白く優しいハクサンチドリ
ミヤマキンポウゲが明るく灯る

岩と岩の間を一歩ずつ
息を切らせながら登っていく
神様が創ったロックガーデン
(誰かの足跡に、私の靴を乗せて)

山がたくさんの足跡を受け取ると
空が近づいてくる
銀河まで繋がっている予感

地上から1000メートル越えると
花の精がきらめきながら飛びまわり
花は光そのものになる

タテヤマリンドウ‐ キヌガサソウ
ワタスゲ・クルマユリ・・・・
呪文のように呟くと
夏山の気があふれてくる
花の時間 山の時間 人の時間
しゅるるとからまりあって
いっきに生命の源をたどる
自分が植物だった頃の記憶が
ふと蘇ってくる瞬間
懐かしさがこみあげて

私は植物図鑑のページの中に
するっと吸い込まれてしまった
(誰かが開いてくれるまで、ここで待っていよう)

窓の外はキーンと凍った冬の色
風の音と姿はもう消えて
月明かりだけが散らばって
花びらのように見える夜





2018年2月16日金曜日

(新しい本)森

     「森」

つきささる時の影に
森がざわめき始めた
わずかな光を誘い出そうと
強い風が吹き荒れる
木々の枝は大きくうねり
小刻みにふるえる葉先が
私の空を切り裂いていく

ちぎれかけた葉っぱから
植物の匂いがほとばしり
森全体に立ち込める頃
地鳴りのような音が聞こえてくる
動き出すことが怖くて
うずくまっていた私の
脳髄に分け入ってくる
森の呼吸音
(こんな遠くまで、響くなんて)

私は激しく揺さぶられて
駆け出して行った
ブリキ製の星座版だけ持って
戸を開けて外に出ると
そこは天球の内側だった
雲は風に追われて
晴れ渡る闇のドームのなか
北斗七星からたどって
北極星を探す

森と私の位置

青い樹木の幹が
迷路になって続く
まがりくねった森の道は
登っているのか下っているのかわからない

とがった草を踏んで
心の流れのままに
ひと晩中駆けめぐると
素足に一筋の血がにじむ
(時の影が 抜け出している)

風といっしょに流れ星を
飲みこんでしまったらしい
私の中で星がまたたく
朝までにたどり着けなくてもいい
森のざわめきの方向に
今を走り続ける





2018年2月15日木曜日

ひなまつり

       「ひなまつり」

山いちめんに
桃の花が抱いて
青空にくるまれている
桃色の花あかり
内側から光を発し
花びらと空の境界線が溶けて
空いっぱいに広がった

見上げていると
どこかに紛れ込んでしまいそうだ

垂直に立っている
からかみを開けると
昼でもほの暗い座敷真の
片隅で小さなひなまつり

緋毛氈の階段に
おひなさまが並べられ
華やいでいる
未知の白と期待の赤が
混ざりあって生まれた
桃色の空間
人評たちは黙ったまま
時間を吸い込んでいる

障子を開けると
庭に集まっていた日光が
部屋に流れ込んでくる
畳の上に眩しい光の線が引かれ
光と影の境目を
わたしは行ったり来たり

もうすぐ五人囃子の音楽が始まるよ
三人官女が何か大切な物を
運んでくる

おひなさまとお内裏さまをは
これからどこへ行くの
見えない物語の続きが気にかかる

いつも何かが始まる直前
閉じ込めた時間が
あふれそうで
みんな桃の花色に染まるから

垂直に立っている
あのからかみを
そっと開けてみる







(新しい本)言葉に乗って

       「言葉に乗って」

いちばん行ってみたいところは
あなたの心の中

私がつぶやいた言葉が
空に浮かんでいる
もうすぐ夕焼けになりそうな
予感に満ちた夕空の
たなびいている雲の間

うっかりした忘れ物のように
広い空に引っかかっている
私は思いっきりジャンプして
いろいろなもを飛び越して
言葉のふちにつかまった
ザラザラした言葉の手触り
じかに感じながら宙ぶらりん
風がやってくるたびに
体ぜんたいが大きく揺れる

もう落ちるかもしれない
と思ったとき、もっと強い風が吹き
私は遠くに吹き飛ばされてしまった

自分で飛んでいるのではなく
飛ばされているのだけど
無数の光のつぶとぶつかりながら
時間の影をいくつも追い越して
ちぎれた葉っぱの緑の匂い

海を渡る三日月の孤独
体が斜めになったまま
宙をひた走る
どうしても行きたい場所に行く時

人はこうして言葉に乗って
旅をするのだ
宇宙の法則を次々と壊しながら
あの人の心の中に
吸い込まれていく






2018年2月12日月曜日

(新しい本)キミと出会うのは

      「キミと出会うのは」

キミと出会うのはいつも冬
すべての色彩が光にもどり
どこかへ帰っていく時間
世界の表面が薄くなって
心が透けて見えてくる
ボクは自分の心の空洞に
佇んでしまう

そんな時、キミは空からやってくる
狂ったようにざわめいている暗い空から
きよらかにひたむきに落下する
心の天井を壊してきたの
キミは笑いながらおどけてみせる
もう一つの国からそそがれる
ま新しいメッセージ

キミはとても冷たい
ボクの手のひらで溶けていく
キミは誰
ボクはキミの名を思い出そうと
記憶の底を探す
かすかな存在感が少しずつ
積み重なって つもると
この世の価値観がクルッと反転し
ボクはキミでいっぱいになる
ボクはキミ キミはボク

時間が凍って立ち止まっている
光になった色彩のつぶが
みんなここに集まって
白く白くまっ白になっていく
地上日置き忘れられた雲の輝き
今にも動き出しそうな
白い動物たちたくさんかくまって
静まりかえった
何もない白い空間

キミとボクの二人だけ
本当に出会えているのかいないのか
白さの中で戸惑いながら
二人だけで世界は満席になる
ボクの心の中なのに
現実から一番遠い場所





2018年2月11日日曜日

こもれ陽

     「こもれ陽」

かさなりあった木々の枝の
葉っぱのすき間には
ギザギザになった小さな空が
いくつも浮かんでいる

風が吹くたびに形が変わり
鳥が羽ばたくごとに
小刻みに揺れるけれど
静止した瞬間に
まわりの空気が凝縮して
青く透明なレンズになる

アクアマリンの原石のような
こもれ空の光のレンズ
じっとみつめていると
向こう側の世界が見えてくる

心とつながっている
レムリアの大地にも
穏やかな陽が差して
川に沿って続く道が
どこまでも伸びていく

上空の木の葉が
リチウムクオ―ツ゚に変わる頃
心のどこかにもこんな木が
すっと立っている気がする

こもれ陽と一緒にこもれ空が
地上に降りてくるとき
大きな空のピアノが音をたて始め
ひたむきにピアノを弾いている
あなたの指が見えてくる

音楽は私の内部に入り込み
私のすべてを揺さぶってくれる

今、ピアノの音の一滴が
私の海に落ちたようだ
海がふるえて波が生まれ
私は光の波で満ちてくる
もう溢れてしまいそうになる

空のどこかで
ピアノを弾いている
あなたはいったい誰ですか






2018年2月10日土曜日

(新しい本)空を泳ぐ

       「空を泳ぐ」

夏空は海の匂い
まぅ青に広がる海原を
雲がどんどん動いていく
目で追いかけていると
急に心が誘われて
私は空を泳ぎ始める

空を思いきり吸い込んで
少しずつ吐き出しながら
両手をゆっくり伸ばし
風力を確かめながら
宙を泳ぐ

白い雲の波に乗って
かろやかに前へ
体にからみつく夏空は
とろりと濃く
太陽の粒を浮かべている

眼下を覆っている
陽光と山々の色を溶かし
いくつもの影と
人や鳥の声を飲みこんで
いっそう澄み切っていく
真夏の空

空気をめくりながら
進んでいくと
空はきれいな円を描く
光で作られた魚の群れを
追い越してスピードを上げる
雲の波をくぐるたびに
新しい風景が生まれる

夏空は揺れている
いつも不定形に
動き続けるから
迷い込むのにちょうど良い

2018年1月19日金曜日

(新しい本)あの人

      「あの人」

私の風景の中に
ときおり、あの人が
現われることがある
いつ頃からだろう

ほんの少し近づいてくる
かすかな気配を感じるだけで
私の心は波立って
晴れやかな気分になってくる

いつも見慣れているれ景色
受け取っている感覚の中に
あの人が紛れ込むだけで
世界がいきなり活気づき
動き出す

無数の風景が
鮮やかに色づいて
黙ったままの大地から
音楽が立ちのぼり
私の風景の枠を超えて
溢れ出していく

あの人は誰だろう
ずっと前から知っている人なのか
まだ会ったことのない人なのかなのか
わからないけれど
なぜかとてもなつかしい

凍てついた空に
突き刺さった冬の木々の
内部にぽっと灯がともる頃
雲間からもれてくる
光が人の形になって
出現したのだろうか

あんなに澄み切った青空にになる

私の風景とあの人の風景の
境界線がゆるやかになり
重なり合う日が来るのかもしれない

あの人の名前は希望