2010年2月26日金曜日

’●新しい本)約束の場所へ~♪

     「約束の場所へ」

見慣れた玄関のドアを開けて
「ただいま」と、すべりこむと
つま先から沈み込む感触に
体が中空に投げ出されている気がした
落葉と腐葉土の匂いに包まれて
私は野外に立っていた
どうやら見知らぬ照葉樹林に
紛れ込んだようだ

とぎれとぎれの空がにぶく光り
黄金色の葉が小さくまわりながら
降ってきた
幹から水がしたたり落ちている
葉先からこぼれる一滴の水と
立ち並ぶ樹木の一本が
私に向かってしきりに話しかけてくる

聞き取ろうとして耳を澄ますけど
言葉が意味を結ばない世界
私にはまだ聞こえてこない

もっと耳をすますと
極細の雨が降りはじめた
しばらく雨が降り続くと
地面から透きとおった糸が
吹きあげているみたいだ
水蒸気が立ち上る真中に
一頭の白い馬があらわれた
馬は雨に濡れないで発光し
存在が静かに呼吸している

馬は私の方をじっと見ている
はるかな湖のような目が妙になつかしい
「こっちにおいで」と首を傾けながら
たてがみと長い尾がふっさりと揺れて
私は遠い未来の記憶を思い出す

樹木の間をすりぬけて走る
馬の示す方向に私も行ってみよう
私はまだどこにも帰りつけないまま
約束の場所を探し続ける

2010年2月22日月曜日

月~♪


 このところバンクーバーの雪と氷の世界に夢中になっていて、詩を入れるのを忘れていました~(*^_^*)春らしい暖かい日が続いていますね~♪
今日は、月の光を浴びて発芽する想いについて・・・ですよ♪

    「月」

月の光は
闇を小さく切り裂きながら
ちりちりと降ってくる
流れるのではなく
流されるように降ってくる

あふれるほどの月光の中では
みんなうらがえしになって
背中を見せているから
(光速なら追いつけるだろう)
夜空に置き忘れられた私の庭も
影が作った切ない輪郭
いちめん月の光に染まり
土の底まで浸みこんでいく

明け方には
私の庭のかたすみで
かたい土の表面が動きだす
かすかに震えながら
ひび割れた土のすきまから
銀色の芽があらわれて
しずかに風が吹く

月光を浴びて発芽した私の想い
(いつ埋めたのだろう)
細い茎は風にもつれながら
光に向かってしゅるしゅると
伸びていく

花はもう咲いているだろうか
通りがかった人々は
立ち止まって空を見上げ
「気が立ちのぼっていきますなあ」
と、何もない上空を
指さしている

2010年2月17日水曜日

初恋~♪


 「初恋」

いくつもの銀色の粒が
中空ではじけているような
ピアノの音が
空から降ってきたら
あの人があらわれる

影の国からやって来た
クールで孤独な転校生と
光の中をさっそうと歩く
新進気鋭の実業家

影と光はまざりあったり
はなれたりしながら
同じ人物の中をうごき
ピアノの音だけが記憶をつなぐ

迷った時にはいつも
ポラリスを探してごらん
とろけるほど美しい笑顔で
話しかけてくるので
私たちはいっせいに恋をした
笑ってしまう だけど本気

どんなことがあっても変わらない
何年たっても続く愛
現実にはありえないと知ったから
この恋がいっそう切実になる

とまどいやせつなさを
運んでくるピアノの響きと
空から降ってくる雪の輝き
見あげていたら
気持ちが軽くなっていった

どんどん軽くなって
天空を浮遊している雪片に
そっと入りこむ
雪の内部は意外とあたたかく
ふしぎな光に満ちていた

ここからまっしぐらに
あの人のところに降りそそぐ
すずやかな髪にとまり 指に触れ
いっきに心の中にすべりこむ
ただそれだけでいい

かなたから聞こえてくるソナタは
いつまでたっても同じメロディーを
くりかえしている

2010年2月12日金曜日

’新しい本)冬の人♪


     「冬の人」

冬の陽ざしを飲みこんで
ふくらんでいく日だまりの
つるりとした表面が
かすかに揺れ始めると
光のまん中から
ひとりの人があらわれた

長めのコートを着て
少しうつむいた人は
だまったまま近づいて
私の頭をなでてくれる

手の重さと感触の確かさで
体じゅうがあたたかい
あなたはいったい誰ですか
どこかで出会った気がするけれど
なかなか思い出せない

たくさんのシーンが現われて
記憶が増殖をくりかえすと
知りたかった謎が
目の前で解けていった

光の粒子の奥で眠っていた
その人が目を覚まし
私を包んでくれる
どうしても会いたいと
願った人と出会える冬
あなたは冬そのもの

上着のポケットの底から
折り紙の鳥を取り出すと
折りたたまれた光と影
宙できらめきながら
色とりどりの鳥の群れが
飛び立っていく

いっしょにみつめていると
私たち、地表から何センチか
浮かんでいる気がする
あたり一面チリチリと
立ちのぼる冷気の中で

2010年2月9日火曜日

窓 ♪


    「窓」

窓は光でできている
小さい窓も大きい窓も
どんな形の窓も
みんな光で作られている

外から内に向かって
投げかけられる日の光と
内から外に向かう心が
バッタリ出会う光のたまり場

淡い光や濃い光が
この場所でキュンと結晶して
垂直に立っている
窓いっぱいにはりめぐらされた
アンテナみたいな樹木の枝
小枝にからみつく青い空
洗濯したての白い雲

遠くまでくっきり見えている
風景のすみずみまで
光のつぶが反射しているだけの
幻影かもしれない

時間はまっずぐに流れない
何かにひっかかって
進むことも戻ることもできない
もどかしい日々

私の夢はどこに行ったのだろう
ふらっと出かけたまま帰ってこない
夢もこわれやすい素材で
つくられているから
窓の内側で眠っていると
私という存在も
実体のない幻だと気がついた

窓の内と外の区別は消えて
風が吹き抜けていった
世界は全部つながっている

夢の光を浴びている間だけ
時間は切実に動く

窓は光でできている
光は窓でできている
窓を開けなくても
すでに窓は開かれている

2010年2月5日金曜日

〇<第一詩集)春の鳥~♪


 「春の鳥」

鳥の羽ばたき音が
狂おしく
胸に分け入ってくる日
冬に封印されていた
空の遠くで 灯がともる

無数の精霊たちが
つめたい手をかざし
つま先立ちで踊りだすと
はりつめていた冬の糸は
ほころび始め
きざしを待つ人々の心で
たぐり寄せるように
こぼれ散る光

生まれたばかりの陽が
たどたどしい歩行で
地表をなでると
大地はゆるやかに
寝がえりをうち
ゆさぶられた人々は
空をあおぐ

鳥はいつも
ふいにやって来る
あてのない飛行ののち
夜明けの白い空に
飛びたっていく背後には
おびただしい色彩が流れ

ひかりの矢に射られた私は
視界をさえぎる扉を開き
無限につらなるものたちと
交信をする

2010年2月2日火曜日

〇'(第一詩集)異空へ♪


  今日は、平成22年2月2日ということで、2がいっぱい並んでる日です♪
何となく楽しいですね♪
ということは、22日はもっと楽しいのでしょうね♪(*^_^*)
今日も、不可思議な詩の世界へ出かけてみましょう!!
(なぜか、スナフキンさんの登場です~!!)

  「異空へ」

窓のかたちに縁どられたまま
うごかない冬の空
みつめていると
ふいに意識が深まって
ぽっかり空いた空洞に
すべり落ちていくのです

からだごとくるくるまわりながら
宇宙の芯に向かって落ちていく
落下は恐怖よりも諦観に近く
すとっと着地したら
知らない町が広がっていた

その町はいつも夕焼けに覆われていて
時が止まっていた
空いっぱいにこどくの音が鳴り響き
大きく脈を打っていた

たくさんの人が行き交う
乾いた歩道の上に
いちまいの切り紙が
風にあおられて飛んできた
魂を吸いとるという赤い切り紙
ヒトガタに切りぬかれた
紙の表面には

靴の跡がくっきりとついていた
(踏まれても
もう一度、風に舞うんだね)
人々の寂しい心を
いくつもいくつも吸いこんで
いっそう赤く輝きながら
夕焼けをかきわけて
消えていった

私は吸いとられた分量だけ
軽くなった魂を連れて
ふわりと宙に浮かび
意識の中をのぼっていく