「夜空のココア」
空のふちから
こぼれるほどの
冬の星たち
ぐるぐるまわると
とろとろとろけて
ココアの香り
夜空のポット
フーフー沸いて
流れてくるよ
私の黄色い
カップの中にも
ひかりキラキラ
夜空のココア
飲みほすたびに
さあ がんばろうと
元気が出てくる
ココアのドアなら
いつでも開く
おはらとしこさんの詩の言葉は、とてもや
わらかで心地よいので、読み始めると心が
ほどけていくような気がします
生まれたばかりの言葉に、たった今、出会った
ような新鮮さが、おはらさんの詩の特徴だと
思います とてもみずみずしい世界なので
最初に出合った瞬間から、その不思議な世界観に
ひかれてしまいました 人(子供も大人も)や
物や風景に、暖かい視線を注がれていて、
独自の詩の世界を見せていただいています
そして、その詩の国の向こうには、広くて
深い世界が広がっている気がします
おはらとしこさんの作品の中から
「おやすみ ぶらんこ」「さくら さくら」
「かえりみち」三作品を選んでみました
まいました
ネジバナの階段
空の蕾を見つけるたびに
旅人の手のひらから広がっていく
幾千もの空の花
それぞれ違う空の下には
しじなでも続く平原
もしかしたら必然
地面から立ち上がる
ネジバナの形と色彩
光彩に映し出す
ネジバナの階段
のぼり始める決断
一歩ずつ足場をみつけ
右。斜めに上昇していく
下を向いたら落下
楽観しながら前を向く
花の配列に導かれるまま
進んでいくとくるり
くるくる回る螺旋階段
さっきと似たような風景なのに
風が濃くなってきた
花は散る いや散らない
からまってくる日常を
振りほどきながら
とまどいの多い日々
ひび割れないように
何度もねじれながらも
いっきに加速度あげて
遠い空をめざす旅
意識の仲では
難しいリズムで
踊りを踊る
宿る精霊
冷静な金星の方向へ
くるくる回っていると
心の螺旋と混ざり合ってくる
もう、どこからが空なのかわからない
未来の見えないこの世界の
まんなかにある平原で
さあさあと声かけあって
ねじれながらもつれながら
謎の階段をのぼっていく
気配
夕焼けになりそうな
気配に満ちた冬空から
ふいに受け取った小さいブーケ
透明なセロファンと
淡い紅色のラッピングペーパーに
くるくると包まれている
細いリボンをほどくと
植物の鮮烈な香り
部屋いっぱいに広がった
ま新しい水の宇宙に
とき放たれて
私の心も解れていく
きれいな炎になるつもりだった
グロリオサの花びらが
燃え上がりながら
染まったばかりの夕焼けに
突き刺さる
インカの遺跡の野原で
揺れていたアルストロメリア
風になりたかったのと
語りかけてくる
花のあいだを浮遊している
カスミソウは星の系譜
強く煌めくたびに
夕空に誘われて
立ち上っていく
花たちのエネルギーに惹きこまれて
私は時間からはぐれてしまう
気が付くと
いちめんの暗闇
夕焼けの後の暗闇は
澄み切っているから
忘れていた心の奥底まで
透けてしまう
私は、何になるつもり
だったのだろう