2012年11月29日木曜日

鼓動

             「鼓動」

あなたの出番を待っていると
私の心の高揚と動揺を
映し出すように
夕暮れの雲は流動しながら
いろとりどりに変化していく

山ぎわの上空がざわめいて
かすかに震えだすと
空全体がドクンドクンと
波うち始める

あなたの鼓動の音が
体を抜け出して
宙に響きわたっている

私たちは心を静めて
願いごとを
空に飛ばす
あなたを見守る
たくさんの人々の祈りが
空を駆けめぐり
あなたのいる場所に向かっている

あなたの出番が近づくと
空気が濃くなって
凝縮された時間の中に
流れ込んでくるから
息苦しくなる

あなたの鼓動と
私たちの祈りが
混ざり合ったとき
緊張感や焦燥感で
固まっていた空気が
ほどけていく

スケートリンクに歓声があがり
オペラ「道化師」のテーマ曲が
流れてきた

2012年10月28日日曜日

冬の空

    「冬の空」

はいいろの雲を
しきつめて
こごえそうな
冬の空
たくさんのファンタジー
すいこんで
キラキラひかってる

みつめていると
うずまきながら
銀色のつばさ
空いっぱいに
ひろがって
冬の空は
大きな鳥になる

はばたく音が
きこえてきます
あふれる夢を
せなかに乗せて
もうすぐ
みんなのところへ
飛んでくる

2012年8月2日木曜日

樹木と太陽と

「樹木と太陽と」

真夏の午後の
太陽は空のまん中で
大きくふくらんで
膨大な量の光を
投げかけてくる

強い熱風をあびて
風景は立ち止まり
居場所を失って
とろとろとけ始める」

建物も電柱も道路も
みんな空とつながって
不思議な曲線を描き
ゆるやかに渦を巻いている
時間もとけ出しているらしい
心が巻きこまれそうになる

私は、粘っこい粒子を
かきわけながら前に進み
からまってくる空気を
くぐりぬけると
目の前に一本の樹木が
立っていた

樹木はくっきりとした
りんかくを持ち
空に向かって上昇していた
めらめらと燃えたつように
伸びあがって
太陽と対面している

葉の先まで澄み切って
すべての光を受けとめて
枝葉が揺れている
樹木の内部からのエネルギーで
あたりの大気がほどけて
風になっている

真夏の午後
ゴッホの絵の中に
まぎれこんだような
ひととき
あの樹木のなぞは
まだ解けないままだ

2012年3月27日火曜日

●(新しい本)ほのお~♪

「ほのお」

一冊の書物の中には
いくつものあかりが
ともっていて
ページを開くたびに
あたらしい光に
照らされる

ひとつひとつの言葉が
柔らかく燃焼しながら
発光しているので
暗がりが活気づいて
きれいな闇色に染まる

そのあいだを走り抜ける
光の方向を目で追うと
ずいぶん遠くまで
見わたせる

ボスコのランプ
カモンイスの猫の瞳
ノヴァーリスの花咲く樹
ファラデーのロウソク
バルザックの植物

書物からあふれ出る
さまざまな光は
飛び交いながらうずまき
大きな星雲になって
宙を漂ったり
地に降りて一輪の花になる

バシュラールが見つめ
夢想していた蝋燭の
つややかなほのおは
いつまでも燃え続け
今も、私たちの目の前で
揺らめいている

謎を持つ芳醇な言葉に
満たされていると
イマージュのほのおで
未知のお空間が
どんどん膨らんで
無限に広がっていく

2012年3月13日火曜日

もっと深く~♪

「冬」

冷気がさえずりはじめた日、凍てついた扉が
裂けると、いちめん色のない虚空が広がって
いた。私は、狂った糸巻きのように、無数に旋
回しながら、冬の中へ落ちていきます。

 空と大地のさかいがうすれ、人と人のさか
いがうすれ、見わたすかぎりの万物がほどけ
て、ゆっくり溶け合っていく。真冬の国は、
無重力のびいだま宇宙、憂うつと安息が、流
れ模様になってうずまくつややかな矛盾体。

 そっと、のぞき込むと半透明な景色が、水
蒸気のにおいの中で、ふるふるふるえてい
る。北風がいっしゅんの閃きで彫った山や河。
今、生まれたばかりの清々しい息を吐き、お
ごそかな顔だちで祝典を待つ。無口な木石は
明けがたの夢の彷徨。水枝を持った樹木は、
時間を超えて立ちつくす。

 昨日まで、一本道だった。私の白い道は
放射状にのび、分岐点を過ぎるごとに大きく
うねり、血管のかたちで無限の循環をくりかす。

 星々からのさみしい波動を受けた、第三惑星
の住人たち。ひたいに風の結晶を浮かべ、あつ
い夢だけをまとって、行者のまなざしで歩く。
闇にのみ込まれる前に、どうしてもたどり着き
たい町があるから。背中のまんなかにすっぽり
陽を浴びて、不確かな光源からの見えない糸の
束を、かすかに感じながら歩く。

 「なぜいつも遠くばかりみつめているの」「目の
前をガラスの小馬が疾走するよ」たてがみが
空に触れるたびに、「シャリーン」とふしぎな音が
立ちのぼる。霧の笛と共鳴して、小さく響き合い
天にあふれる。

 灰色の雲が割れて、新しい「青」が飛び散り
私の体を彩が流れる。
(冬の底をつらぬいて、もっと深くもっと深く
落ちていく)

2012年2月28日火曜日

●(新しい本)あかり~♪

「あかり」

春の大地から
いっせいに湧きあがる
みどり色の生命たち
一葉ごとにちがう光を
放ちながら
躍動し始めると
地上に無数のあかりがともる  
草が萌えて
いのちが燃える

地面から立ちのぼる
一本の草木をみつめていると
人類がまだ植物だったころの
記憶がよみがえる
雨をのみほして
大きく背伸びしたり
日の光に射られて
ざわめきあっていた

太古からのいのちと祈りを
受け継いで走り
どんな時でも
あかりを灯し続け
今ここを走っている
私たちは聖火ランナー

自分の中にも
最初の人間の あかりが宿り
みんな繋がっている

宇宙船の窓から
夜の地球を見ていると
みどり色のオーロラが
円環しながら
焔のように揺れていた

大陸のあちこちには
光が点在しているが
日本の上空を通った時
光は日本列島の形になって
静かにともっていた

ひとりひとりが発している
存在のあかり
天からこぼれいるたような
光の集合が
とてもいとおしい

2012年2月20日月曜日

時のかたち~♪

「時のかたち」

ふと気がつくと
私はゾウの背中に乗って
空を飛んでいた

飛んでいるというより
圧倒的な浮遊感に
包まれたまま
運ばれていたのだ

なぜゾウなのかわからない
大きな耳を左右に広げて
ゆったりとはばたいていたし
長い鼻を前に伸ばし
息を吐いている
(今という時のかたち)

私とゾウが進むたびに
まっ白い雲が生まれ
あわい飛行雲がちらばって
まぶしい光にかわる

見おろすと
人も町もとけあって
とうめいな風景が流れていく
次から次へとすぎていく
方角の神々に守られながら

前方から強い風が吹いて
全身にぶつかってくるけれど
ゾウが吸収しているのだろうか
意外と心地良い風だ
スカーフはひらめいているが
前髪は静止している

物理の法則からこぼれおち
思考の範囲からも遠く
はぐれてしまった
私はどこへ行くのだろう

瑠璃色の粒子の濃度が
薄くなったり濃くなったり
幾重にも重なる空の層を
ぐんぐんと超えて行く

人はわけのわからない衝動に
つきうごかされて
謎をかかえたまま
今という時を越える
光と風のゾウに乗って

2012年2月9日木曜日

夕日から始まる~♪









「夕日から始まる」


何をかかえているのだろう
今日という一日を
ながめつくした夕日は
大きな円にふくらんで
銀とオレンジの光りをまき散らし
山のてっぺんに降りていく
重そうにゆさゆさ揺れながら

どこまで降りて行くのだろう
明日になったら
もう一度吹きあがってくることが
信じられないほど深い場所
濃くなっていく夕焼けの波が
押し寄せてくるのをかきわけて
夕日をが思いぅきり蹴ってみた
つま先で砕けて行く夕日の
熱いしぶきを全身にあびて
夕焼けの街を歩く

消えていく今日と生まれてくる明日の
まん中にぽっかり空いた闇の空洞
ざわめきの中で心は沈黙している

まっ暗な部屋に明かりをつけて
テレビのスイッチを入れると
次から次に溢れ出る映像
突き刺さるニュースの渦に
体ごと巻き込まれそうになる
時代に投げ出されていると
何かに吸引されている

のみ込まれる前に
たった今だけ
この瞬間を受け入れると
とうとつに開けてくる無限空間
どこからともなく湧きあがってくるものに
つき動かされて
私は走りはじめていた

不確かな空気を切り裂いて
どこまでもどこまでも走り続け
もう夜明けの町を走っていた
星が帰ろうとしている透明な道が
やけにきれいな青い空に浮かぶ
いちばん静かな時間に
心のパーカッションは鳴り響く
待っているのではなく
自分でむかえにいく朝日

2012年1月16日月曜日

短詩をいくつか~♪第一詩集○



★「記憶」

まだ出逢ったことのない
あなたのことが
とてもなつかしい



★「焦燥」

目の前にしきつめられた
風景をこわして
もう一つの風景に
迷いこみたい


★「雨」

わたしの魂は
ゆっくりと加速しながら
あなたの空洞に
すべりこみます


★「胎動」

出口をさがして
つきあげてくるもの
うごめいている
ざわめいている
りんと閉ざした
蕾のおくで