2012年3月13日火曜日

もっと深く~♪

「冬」

冷気がさえずりはじめた日、凍てついた扉が
裂けると、いちめん色のない虚空が広がって
いた。私は、狂った糸巻きのように、無数に旋
回しながら、冬の中へ落ちていきます。

 空と大地のさかいがうすれ、人と人のさか
いがうすれ、見わたすかぎりの万物がほどけ
て、ゆっくり溶け合っていく。真冬の国は、
無重力のびいだま宇宙、憂うつと安息が、流
れ模様になってうずまくつややかな矛盾体。

 そっと、のぞき込むと半透明な景色が、水
蒸気のにおいの中で、ふるふるふるえてい
る。北風がいっしゅんの閃きで彫った山や河。
今、生まれたばかりの清々しい息を吐き、お
ごそかな顔だちで祝典を待つ。無口な木石は
明けがたの夢の彷徨。水枝を持った樹木は、
時間を超えて立ちつくす。

 昨日まで、一本道だった。私の白い道は
放射状にのび、分岐点を過ぎるごとに大きく
うねり、血管のかたちで無限の循環をくりかす。

 星々からのさみしい波動を受けた、第三惑星
の住人たち。ひたいに風の結晶を浮かべ、あつ
い夢だけをまとって、行者のまなざしで歩く。
闇にのみ込まれる前に、どうしてもたどり着き
たい町があるから。背中のまんなかにすっぽり
陽を浴びて、不確かな光源からの見えない糸の
束を、かすかに感じながら歩く。

 「なぜいつも遠くばかりみつめているの」「目の
前をガラスの小馬が疾走するよ」たてがみが
空に触れるたびに、「シャリーン」とふしぎな音が
立ちのぼる。霧の笛と共鳴して、小さく響き合い
天にあふれる。

 灰色の雲が割れて、新しい「青」が飛び散り
私の体を彩が流れる。
(冬の底をつらぬいて、もっと深くもっと深く
落ちていく)

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