2014年11月20日木曜日

鳥のようなもの

       「鳥のようなもの」

不確かな方角から
一羽の鳥が
私の視界に飛び込んできた

ケヤキに吸い寄せられるように
近づいてきて止まり
小枝を揺らせながら
幹をついばみ空をついばみ
遠くを見ている
鳥の視線は光を放つ

唐突に空気が弾かれる
高い声で鳴き始めると
声はまっすぐ駈け上り
空にぶつかっては跳ね返り
鮮やかな色彩を発している

受け取った鳥たちが
あちらこちらから返事を交わすので
天空は鳥の言葉と
色とりどりの色彩が満ちる

鳥の伸びやかさと
鳥の体温ほどの
温かな明りが
私の内部に宿る頃

空全体が鳥の形になって
大きな翼を広げて
羽ばたき始め
得体のしれないものを
抱えたまま
飛び立って行く

次の空間に向かって
全速力で飛んでいく
地球と同じ速度で
飛び続ける

いつのまにか
私は鳥と同化して
飛んでみる
今も、何かに向かって
たぶん飛んでいる




2014年11月15日土曜日

ハッピーバースデー

        「ハッピーバースデー」

シクラメンの
花が咲いたら
明るいほのお
燃えているから
寒い日だって
暖かくなる

シクラメンの
明るいあかりは
キラキラひかり
おたんじょうびの
ケーキの上の
キャンドルみたい

シクラメンは
しあわせ運ぶ
冬に生まれた
すべてのものを
お祝いしてる
ハッピーバースデ―

2014年11月11日火曜日

コスモスのタクト

      「コスモスのタクト」

コスモスが
しなやかなタクトを
振りはじめると
空の色が
すきとおる

コスモスの
タクトが揺れるたびに
空気もゆれて
涼やかな
秋の風になる

コスモスの
魔法のタクトで
野原じゅうが
秋の音を
奏でてる


秋の俳句
◎ コスモスに恋を告げてる風天使

◎もみじ葉と空との境目澄みわたる

◎紅葉を透かしたひかり胸に満ち

2014年7月23日水曜日

どこまでも

   「どこまでも」

私は山道を歩いていた
地球の感触を確かめるように
ゆっくりと踏みしめる
記憶の石ころを越えて
雑念の岩を迂回して
一歩ずつ進む

木々の枝がつぎつぎと
手を差し伸べて
歓迎してくれる
緑の葉脈を透かして届く
光に浄化されていく


遠い星から指令を受けて
やって来た使者のように
押し黙ったまま
同じ方向に向かっている
色とりどりのパーカーの群れに
紛れ込むと

背中が少し重くなる
バックパックには何を
詰め込んできたの
必需品の隙間で生まれた
希望の欠片が
どんどん膨らんでいる

一歩前に踏み出すたびに
上昇していくのか
下降しているのか
わからなくなるけれど
トレッキングシューズの靴底だけで
地上と繋がっている
奇妙な浮遊感の
不安定さが心地良い

どこに向かっているのだろう
どこでもいい
ただひたすら歩いていると
心も体も空っぽになってくる

無に近くなった頃
自分の内部のどこかで
真新しいものが
ふつふつと湧きあがってくる

どこまで歩くのだろう
どこまでも

  

2014年1月24日金曜日

約束   

       舞束

大観衆の歓声と視線を
全身に浴びながら
あなたはただひとり
スケートリンクのまん中で
打ち寄せる不安感と
突き刺さる緊張感に
立ち向かっていた

転倒しても起きあがり
懸命に踊り続ける
あなたの表情は悲壮感に満ち
壮絶な姿だったけれど
絶望の底の底で 
狂おしくもがきながら
あなたは何かを掴もうとしていた

心の暗がりの中でみつけた
小さい光を追いかけて
どこまでも躍動し続ける人

しなやかな指先を伸ばした瞬間
時空を超えてしまったようだ
時間の流れが止まり
あなたの体から光がこぼれた
飛び散る光の粒子が
あなたを包み込んでいく
全身がキラキラ輝き始めた
美しい魂の燃焼

あの日あなたは滑走前に
氷に手を触れながら
氷の神に願い事をしていた
神はうなずいて願い事を受け取り
約束の印に生贄の血を欲した

あなたは手を怪我を流血し
スケートリンクに鮮やかな
赤い花を咲かせた

今日こそは、神があなたの
あの日の約束を果たす日
天と契約を交わしたのだから

優しくて力強い
華やかで情熱的な
あなたのスケート人生で最高の演技を
魅せて下さい
氷の精霊になって
自由自在に舞ってくれたら

どんなことがあっても
あなたを見守り
あなたの心の勝利を
約束します