舞束
大観衆の歓声と視線を
全身に浴びながら
あなたはただひとり
スケートリンクのまん中で
打ち寄せる不安感と
突き刺さる緊張感に
立ち向かっていた
転倒しても起きあがり
懸命に踊り続ける
あなたの表情は悲壮感に満ち
壮絶な姿だったけれど
絶望の底の底で
狂おしくもがきながら
あなたは何かを掴もうとしていた
心の暗がりの中でみつけた
小さい光を追いかけて
どこまでも躍動し続ける人
しなやかな指先を伸ばした瞬間
時空を超えてしまったようだ
時間の流れが止まり
あなたの体から光がこぼれた
飛び散る光の粒子が
あなたを包み込んでいく
全身がキラキラ輝き始めた
美しい魂の燃焼
あの日あなたは滑走前に
氷に手を触れながら
氷の神に願い事をしていた
神はうなずいて願い事を受け取り
約束の印に生贄の血を欲した
あなたは手を怪我を流血し
スケートリンクに鮮やかな
赤い花を咲かせた
今日こそは、神があなたの
あの日の約束を果たす日
天と契約を交わしたのだから
優しくて力強い
華やかで情熱的な
あなたのスケート人生で最高の演技を
魅せて下さい
氷の精霊になって
自由自在に舞ってくれたら
どんなことがあっても
あなたを見守り
あなたの心の勝利を
約束します
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