2012年2月28日火曜日

●(新しい本)あかり~♪

「あかり」

春の大地から
いっせいに湧きあがる
みどり色の生命たち
一葉ごとにちがう光を
放ちながら
躍動し始めると
地上に無数のあかりがともる  
草が萌えて
いのちが燃える

地面から立ちのぼる
一本の草木をみつめていると
人類がまだ植物だったころの
記憶がよみがえる
雨をのみほして
大きく背伸びしたり
日の光に射られて
ざわめきあっていた

太古からのいのちと祈りを
受け継いで走り
どんな時でも
あかりを灯し続け
今ここを走っている
私たちは聖火ランナー

自分の中にも
最初の人間の あかりが宿り
みんな繋がっている

宇宙船の窓から
夜の地球を見ていると
みどり色のオーロラが
円環しながら
焔のように揺れていた

大陸のあちこちには
光が点在しているが
日本の上空を通った時
光は日本列島の形になって
静かにともっていた

ひとりひとりが発している
存在のあかり
天からこぼれいるたような
光の集合が
とてもいとおしい

2012年2月20日月曜日

時のかたち~♪

「時のかたち」

ふと気がつくと
私はゾウの背中に乗って
空を飛んでいた

飛んでいるというより
圧倒的な浮遊感に
包まれたまま
運ばれていたのだ

なぜゾウなのかわからない
大きな耳を左右に広げて
ゆったりとはばたいていたし
長い鼻を前に伸ばし
息を吐いている
(今という時のかたち)

私とゾウが進むたびに
まっ白い雲が生まれ
あわい飛行雲がちらばって
まぶしい光にかわる

見おろすと
人も町もとけあって
とうめいな風景が流れていく
次から次へとすぎていく
方角の神々に守られながら

前方から強い風が吹いて
全身にぶつかってくるけれど
ゾウが吸収しているのだろうか
意外と心地良い風だ
スカーフはひらめいているが
前髪は静止している

物理の法則からこぼれおち
思考の範囲からも遠く
はぐれてしまった
私はどこへ行くのだろう

瑠璃色の粒子の濃度が
薄くなったり濃くなったり
幾重にも重なる空の層を
ぐんぐんと超えて行く

人はわけのわからない衝動に
つきうごかされて
謎をかかえたまま
今という時を越える
光と風のゾウに乗って

2012年2月9日木曜日

夕日から始まる~♪









「夕日から始まる」


何をかかえているのだろう
今日という一日を
ながめつくした夕日は
大きな円にふくらんで
銀とオレンジの光りをまき散らし
山のてっぺんに降りていく
重そうにゆさゆさ揺れながら

どこまで降りて行くのだろう
明日になったら
もう一度吹きあがってくることが
信じられないほど深い場所
濃くなっていく夕焼けの波が
押し寄せてくるのをかきわけて
夕日をが思いぅきり蹴ってみた
つま先で砕けて行く夕日の
熱いしぶきを全身にあびて
夕焼けの街を歩く

消えていく今日と生まれてくる明日の
まん中にぽっかり空いた闇の空洞
ざわめきの中で心は沈黙している

まっ暗な部屋に明かりをつけて
テレビのスイッチを入れると
次から次に溢れ出る映像
突き刺さるニュースの渦に
体ごと巻き込まれそうになる
時代に投げ出されていると
何かに吸引されている

のみ込まれる前に
たった今だけ
この瞬間を受け入れると
とうとつに開けてくる無限空間
どこからともなく湧きあがってくるものに
つき動かされて
私は走りはじめていた

不確かな空気を切り裂いて
どこまでもどこまでも走り続け
もう夜明けの町を走っていた
星が帰ろうとしている透明な道が
やけにきれいな青い空に浮かぶ
いちばん静かな時間に
心のパーカッションは鳴り響く
待っているのではなく
自分でむかえにいく朝日