2010年11月23日火曜日

●’新しい本)冬のタンゴ♪


       「冬のタンゴ」


凍てついた真冬の空の
どこか遠くの一角が
砕け散っているらしい
美しい破壊のかけらが
降ってくる音がして

キミは目覚めると
漆黒のレース地の衣装で
踊りはじめる
熱い思いを閉じこめて
胸元のローズレッドの花柄が
燃えている

バイオリンとバンドネオンの
音色がからまりあいながら
宙をすべっていく
どうしても伝えたい思いを
音の波に乗せて
タンゴのステップを踏んでいる

心がつまずいても
また伸びあがって
前に進んでいくような
スタッカートのリズムは
届きそうで届かない
せつなさの軌道。

観客席で見ている私たちも
無心に踊る姿に魅せられて
ひきこまれていく
魂の通路をとおって
キミの内部と同化した瞬間

スケートリンクは青く結晶し
地上の天空になる

思い切りジャンプして
くるくるまわっている
キミはひとつの惑星
手を差し出すと
宇宙が腕を伸ばして
キミに触れそうになる

さっ いっしょに踊ろう

2010年11月9日火曜日

お月さま~♪


    「お月さま」

まっ暗な夜道で
迷っていたら
空にあかりがともったよ
あわい光りがまあるくなって
こっちですよ  と言われたようで
月に向かって歩きだす

銀色のはしごを
するりとのぼり
月のとびらを開けてみた
いろとりどりの風が吹き
ここからどうぞ とささやかれたら
月の向こうにすべりこむ

夜空に咲いている
やさしい花だ
月の花びらひろがって
あたりいちめんあたたかい
大丈夫ですよ と言われたようで
月は夢の通り道

2010年11月8日月曜日

〇<第一詩集)ゆうびんポスト~♪

   「ゆうびんポスト」

日ごとに
ふくらんでいく
行き先不明のことばたち
私の窓からはみ出しそうになったら
いそいで封筒につめこんで
さっ 出かけよう

まるい思いや さんかくの思い
打ち寄せる秋日に揺さぶられ
みんなきちんと四角形になって
じっと息をひそめている

時をためこんで
凝縮されたこころ
切手のふちどりのように
まっすぐなのにギザギザに見える

雲のない国道を南にそれて
名前のない細い道にすべりこむ
地面のたわみを感じながら
(なぜいつも足もとから風が吹いてくるのだろう)
かすれた小草だけが踊っている
「たいせつなものは もうとっくに
空に溶けだしているのに」と
妖魔の低いつぶやき

気がかりを包みこむほどの
光りの量に後押しされて
自転車のペダルがゆっくり回ると
地軸も少し速度を落とす

立ち止まる車輪の影が
地面に深々と映るその向こうで
ほこりのつもった赤いポストが
ぽっかりと口をあけた

「どこにでも連れて行ってあげますよ」

ここだけが明日につながる通路のようで
私、するりっと、吸いこまれていく