2010年4月25日日曜日

息吹~♪


    「息吹」


樹木は
空に向かって吹きあげた
いのちのかたちをしている

湧き出たばかりの柔らかい緑
大気にはじけ
葉脈のうねりは
無限の方向につづく

大きく深呼吸したら
樹木いっぽん
体の中に吸いこんでしまうよ

五月の朝

2010年4月24日土曜日

風~♪

  「風」


風の中に
佇んでいたら
わたしがからっぽになった
指先から じょじょに
花びらになっていくよ

今度の風に乗ってみようか

2010年4月16日金曜日

〇<第一詩集)春の雨音~♪


    「春の雨音」

るっぴん るっぴん
ふいに明るい雨の音
銀色まだらの大空を
すっすと撫でて るっぴん るっぴん
ひしめきあう水滴曲線に
小さな光を宿し

吸いこまれる のみこまれる
澄みわたる吉備の野へ
びっしょり黒光りの土の中へ

 「何だかあったかいね」
 「うん、ぼくのあたまのなか
 まあるくなってきたよ」
 「からだのすみずみまで
 しみとおっていくね」

ゆうらゆうたちのぼれ
透明なオーロラの微風
ゆうらゆうたちのぼれ
いのちの揺れ
(あの山にねむる古代人は
ひときわつめたい唇に
春の最初の雨つぶを受けたとき
ことんと目をさますという)

ひとり またひとり
土くれをかぶったまま
起きあがるから
荒い息を吐く肩の向こうに
円形のまばゆい空間が広がる

記憶の底の
弥生の土器はさくら色
はるか宇宙樹のてっぺんを
ゆさゆさ泳ぐ
はるかすみと同じ色
土器の中でひたひた波うつ水は
未来形に伸び
大きな太陽を内蔵していた
長い黒髪を後ろで束ねた女の人が
ゆっくり手をひたすと
日光はちりぢりに反射し
顔に照りかえる

いつもこうして最初の命は始まる
いく億もの朝が通り過ぎ
るっぴん るっぴん
地平線の真上をつたう雨の音
果てしない宇宙の時間を
問うことさへ忘れたように
今日の雨は
ノックする

2010年4月4日日曜日

朝~♪


     「朝」

目ざめても
まとわりついてくる夢の断片に
追いかけられながら
荒く挽いたコーヒーに
熱い湯をそそぐと
夢の謎は解けないまま
朝の光を吸いこんで
増殖を始める

春の木立ちのあいだを
まっ白い野ウサギが
駆けぬけて行きます

あたたかい血流が
きゅうに速度を増して
からだじゅうをめぐり
一瞬ごとに起きあがってくる
あたらしい時空を
染めていく

狭くて暗い地下道をさまよっていた
理由のない焦燥感に
せきたてられて
天空につながる道を
探していた

鼻先で芽吹きを感じた野ウサギは
耳をうしろにたおして
風を生みながら走る
地球の内部を
のぞきこんだような赤い炎が
底なしの目の中で燃えて
後ろ足でおもいっきり
地面を蹴ると

鼓動を続ける今日の夢が
昨日の夢のあとを
いっそく飛びに超えていく
春の跳躍

コーヒーポットに落ちる
最後の一適に
きっぱりとした青い空が
小さく映った

2010年4月1日木曜日

あなたの音色~♪

    「あなたの音色」

低くつぶやくような
ピアノの音が
暗闇のなかに浮かび
あわく小さな光源になった

光はつらなったり
はなれたりしながら
宙空を飛びかっている

ピアノの音の一群が
わたしに向かって語りはじめ
目の前で踊りだすと
大きな光に変わる

ピアノを弾いていたのは
あなただったのですね
私はもう迷うことを止め
あなたの方向だけを
まっすぐにみつめる

あなたの音のひとしずくが
するどく輝きながら
今 私の海に落ちてきた

海面がかすかに揺れて
それから深く揺らぎ
波が生まれた

あなたのピアノの音色が
海をゆさぶっている
私という存在の原初の海を