浜辺
まだ海が見えないのに
潮の匂いがする
狭い路地をすり抜けると
急に視界が広がって
私は浜辺に立っていた
がらんどうのような空と
満ちている海
空と海はどこまで行っても
交わらないまま対面し続け
たくさんの時を飲みこんでいる
浜辺には未来から来たのか
過去から蘇ったのかわからない
大きな謎の物体が立ち
何百本もの細い骨格と
白い帆を持つ
海辺の生き物が
やわらかい砂の上で
何かを待っていた
「風が来たよ」
風が吹き始めると
空と海をいっしょに連れて
ストランドビーストは静かに動き出す
パイプの一本一本が
細胞になって呼吸し
浜辺を歩き始める
海面上昇していないか
見極めるため
風を食べて動き続ける
新しい生命体
テオ・ヤンセンの作品
ストランドビーストが
今。私の目の前を動いている
芸術と科学がつながって
海と空を波立たせながら
どこに向かっていくのだろう
私も新しい風を受けて
歩き始める
いつも海から始まる
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