2014年1月24日金曜日

約束   

       舞束

大観衆の歓声と視線を
全身に浴びながら
あなたはただひとり
スケートリンクのまん中で
打ち寄せる不安感と
突き刺さる緊張感に
立ち向かっていた

転倒しても起きあがり
懸命に踊り続ける
あなたの表情は悲壮感に満ち
壮絶な姿だったけれど
絶望の底の底で 
狂おしくもがきながら
あなたは何かを掴もうとしていた

心の暗がりの中でみつけた
小さい光を追いかけて
どこまでも躍動し続ける人

しなやかな指先を伸ばした瞬間
時空を超えてしまったようだ
時間の流れが止まり
あなたの体から光がこぼれた
飛び散る光の粒子が
あなたを包み込んでいく
全身がキラキラ輝き始めた
美しい魂の燃焼

あの日あなたは滑走前に
氷に手を触れながら
氷の神に願い事をしていた
神はうなずいて願い事を受け取り
約束の印に生贄の血を欲した

あなたは手を怪我を流血し
スケートリンクに鮮やかな
赤い花を咲かせた

今日こそは、神があなたの
あの日の約束を果たす日
天と契約を交わしたのだから

優しくて力強い
華やかで情熱的な
あなたのスケート人生で最高の演技を
魅せて下さい
氷の精霊になって
自由自在に舞ってくれたら

どんなことがあっても
あなたを見守り
あなたの心の勝利を
約束します