2023年8月7日月曜日

アオスジアゲハの翅のように

 

アオスジアゲハの翅のように

 

「暗闇をくぐりぬけて

やっとここまで来たの」

光と出会ったばかりの

アオスジアゲハは

まぶしそうに遠くを見る

 

空が恋しいから

異国の空色を身にまとい

小声でうたうように

マーガレットやマリーゴールドの

まわりを飛んでいる

翅を動かすたびに

空気が波になっていく

 

闇の色を翅に残したまま

触覚をふるわせて花にとまる

祈りの姿で蜜を吸う

吸いこむたびに

小さい体が透きとおり

あたりの風景も

少しずつ透明になっていく

 

「川の音が聞こえるわ」

意識の川はどこから来て

どこへ流れていくのだろう

川面がふつふつ揺れて

定まらない具には

 

いくつかの風の門を

くぐり抜けて

意識のまん中に

飛び込んでみる

深く深く潜りながら

水をかき分けると

意識の川はいつしか

実在の川とつながってくる

 

川のほとりを古い自転車で走ると

意識と無意識の交わるところに

アオスジアゲハが

きらめきながら舞っている


こちらに向かって飛んできて

私にとまる

「やっと会えたね」