2015年8月26日水曜日

●追いかける

          「追いかける」
青空を突き抜けていく
大きな白い雲の
動く音が聞こえると
雨あがりの蜘蛛の巣は
虹色に光り
ツユクサに残る宇宙の雫が
ユラッと輝き始める


夏休みの少年たちは
日焼けした細い指で
虫取り網の柄を握りしめ
毎日、昆虫を追いかけていた

夏の波動を送り続けるセミ
魂を背中も乗せて運ぶチョウ
空気を切リ開くトンボ
宙を飛ぶ美しいものたちを
自分の網で捕まえたくて
網を振りまわす
空を泳ぐ無数の網

捕獲しても
すぐに空に放すのに
捕まえた瞬間の感触が
忘れられなくて
何度も何度も繰り返す
空を掬い続けていると
暑い空気が流動する


虫を追いかけて
迷い込んだ裏庭の
ひんやりした異次元の空気を
吸い込んで

世界に張り巡らされた
インドラの網が
見えてくるまで
掬い続ける

夏を生け捕りにしたかった
のかもしれない

少年たちの夏は
いつまでたっても終わらない
振り上げた虫取り網は
空に静止したままだ